・R8年6月施行 障害福祉の処遇改善改定ガイド

令和8年6月、障害福祉サービスの福祉・介護職員等処遇改善加算が大きく見直されました。今回の改定は、令和9年度の定期報酬改定を待たずに実施された期中(臨時)改定です。

背景には、障害福祉分野の深刻な人材不足、介護分野との賃金格差、そして国の総合経済対策に基づく賃上げ方針があります。本ページでは、改定の全体像から新設された上位区分「ロ」の要件、相談支援サービスへの新規適用まで、事業者様が押さえるべきポイントを整理して解説します。

1.改定の全体像 ― 賃上げ水準はどう変わるか

今回の改定率は +1.84%。障害福祉従事者の賃上げとして、次の水準が想定されています。

内容 金額(月額)
基本の引き上げ(障害福祉従事者全体が対象) 約1.0万円(約3.3%)
生産性向上・協働化の取組による上乗せ(福祉・介護職員が対象) +約0.3万円(約1.0%)
定期昇給分(約0.6万円)を含めた最大値 約1.9万円(約6.3%)

※サービスの種類によって加算率・金額は異なります。

2.対象職種の大幅な拡大 ―「福祉・介護職員」から「障害福祉従事者」へ

これまで処遇改善加算の対象は、直接支援を行う「福祉・介護職員」が中心でした。今回の改定により、対象が**「障害福祉従事者」全体**へと拡大されます。

  • 相談支援専門員
  • 看護師・理学療法士等の専門職
  • 事務職員、運転手・送迎スタッフ
  • サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者 など

現場を支える多様な職種を幅広く評価できる仕組みとなり、これまで加算を原資とした賃上げが難しかった事務スタッフ等の処遇改善にも活用できるようになりました。対象拡大に伴い、各サービスの加算率も全体的に引き上げられています。

3.上位区分「加算Ⅰロ・Ⅱロ」の新設

加算Ⅰ・Ⅱに、より高い加算率が適用される上位区分(加算Ⅰロ・加算Ⅱロ)が新設されました。従来の区分は「イ」(加算Ⅰイ・Ⅱイ)として存続します。なお、加算Ⅲ・Ⅳに上位区分はありません。

「ロ」を算定するには、次の特例要件を2つとも満たす必要があります。

特例要件1:生産性向上のための取組

次のいずれかを満たすこと。

  • 下記A〜Gのうち5項目以上を実施する(AとDは必須)
  • または、社会福祉連携推進法人に所属している
項目 取組内容
A【必須】 現場の課題の見える化(業務時間の調査など)
B 5S活動の実践(整理・整頓・清掃・清潔・躾)
C 手順書の整備・記録様式の工夫
D【必須】 ICTツールの導入(記録ソフト、タブレット、スマートフォンなど)
E 介護ロボットや通信機器の導入(インカム、ビジネスチャットツールなど)
F 役割分担の明確化(清掃や食事準備などの外注化・専任化)
G 他法人との協働化(物品の共同購入、事務部門の集約など)

特例要件2:給与への反映(月給への配分ルール)

時期 月給配分の基準
〜令和8年5月 加算Ⅳ相当の加算額の1/2以上
令和8年6月以降(「ロ」算定時) 加算Ⅱロ相当の加算額の1/2以上

ここが重要なポイントです。上位区分を算定する場合、「1/2以上を月給(基本給または毎月決まって支払う手当)へ充てる」義務の対象は、上乗せされた差分ではなく加算額の総額を基準に判断されます。賃金規程・手当の設計に直結するため、算定前に必ず収支シミュレーションを行いましょう。

なお、上位区分の取得は義務ではありません。要件充足の負担と加算率の上乗せ効果を比較し、確実な「イ」を選択することも合理的な経営判断です。

4.既存要件(キャリアパス・職場環境等要件)の見直し

従来の区分(Ⅰ〜Ⅳ)についても、基準が引き上げられています。

加算Ⅰ・Ⅱ

  • キャリアパス要件Ⅳの年収基準:経験・技能のある障害福祉人材について 440万円 → 460万円以上へ引き上げ
  • 職場環境等要件:合計14項目以上(各区分から2つ以上、「生産性向上のための業務改善の取組」から3つ以上)

加算Ⅲ・Ⅳ

  • 職場環境等要件:合計8項目以上(各区分から1つ以上、「生産性向上のための業務改善の取組」から2つ以上)

※令和8年度中は「対応の誓約」による算定が可能です。ただし、年度末の実績報告で未対応が確認された場合、加算額の一部または全部の返還を求められるおそれがあります。「誓約すれば安心」ではなく、年度内に確実に実施できる計画を立てることが不可欠です。

職場環境等要件の選択項目(全28項目)

各区分からそれぞれ所定数以上を選択します。「生産性向上のための業務改善の取組」は3つ以上(⑱の「現場の課題の見える化」は必須)です。

■ 入職促進に向けた取組

  1. 法人・事業所の経営理念や支援方針・人材育成方針と、その実現のための施策・仕組みの明確化
  2. 事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築
  3. 他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験・資格にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築(採用実績でも可)
  4. 職業体験の受入れ、地域行事への参加・主催等による職業魅力向上の取組

■ 資質の向上やキャリアアップに向けた支援

  1. 働きながら国家資格等の取得を目指す者への研修受講支援、サービス管理責任者研修・喀痰吸引研修・強度行動障害支援者養成研修等の業務関連専門研修の受講支援
  2. 研修受講やキャリア段位制度等と人事考課との連動によるキャリアサポート制度の導入
  3. エルダー・メンター制度(仕事やメンタル面のサポート担当者)等の導入
  4. 上位者・担当者等によるキャリア面談など、定期的な相談機会の確保

■ 両立支援・多様な働き方の推進

  1. 子育て・介護等と仕事の両立を目指すための休業制度の充実、事業所内託児施設の整備
  2. 職員の事情に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、非正規職員から正規職員への転換制度の整備
  3. 有給休暇の具体的な取得目標を定め、取得状況の定期確認と上司からの積極的な声かけを実施
  4. 情報共有や複数担当制等による業務の属人化・業務配分の偏りの解消
  5. 障害を有する者でも働きやすい職場環境の構築や勤務シフトの配慮

■ 腰痛を含む心身の健康管理

  1. 業務・福利厚生・メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置など相談体制の充実
  2. 短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェック、休憩室の設置等の健康管理対策
  3. 身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、リフト等の活用、腰痛対策研修、管理者への雇用管理改善研修
  4. 事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成による体制整備

■ 生産性向上のための業務改善の取組(3つ以上・⑱は必須)

  1. **【必須】**現場の課題の見える化(課題の抽出・構造化、業務時間調査の実施等)
  2. 5S活動等の実践による職場環境の整備
  3. 業務手順書の作成、記録・報告様式の工夫等による情報共有・作業負担の軽減
  4. 業務支援ソフト(記録・情報共有・請求業務の転記が不要なもの)や情報端末(タブレット・スマートフォン等)の導入
  5. 介護ロボット(見守り・移乗・移動・排泄・入浴・介護業務支援等)またはインカム等のICT機器(ビジネスチャットツール含む)の導入
  6. 業務内容の明確化と役割分担(食事の準備・片付け、清掃、ベッドメイク、ゴミ捨て等の間接業務の専任化・外注化等)
  7. 各種委員会の共同設置、指針・計画の共同策定、物品の共同購入、事務処理部門の集約など協働化を通じた職場環境の改善

■ やりがい・働きがいの醸成

  1. ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化と、職員の気づきを踏まえた勤務環境・支援内容の改善
  2. 地域の児童・生徒や住民との交流の実施(インクルージョンの推進)
  3. 利用者本位の支援方針など障害福祉や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供
  4. 支援の好事例や、利用者・家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供

5.相談支援サービスへの処遇改善加算の新設

これまで処遇改善加算の対象外だった計画相談支援・地域相談支援(地域移行・地域定着)・障害児相談支援にも、今回から一律 5.1% の処遇改善加算が新設されました。

算定には、次のいずれかのルートを選択します。

  • ルート1(加算Ⅳに準ずる要件):賃金体系の就業規則への規定(キャリアパス要件Ⅰ)、研修計画の整備(キャリアパス要件Ⅱ)、職場環境等要件への取組 ※令和8年度中の対応の誓約で算定可
  • ルート2(令和8年度特例要件):前述の「生産性向上の取組(5項目以上・A/D必須)」+「加算額の1/2以上の月給への充当」

なお、計画相談支援・障害児相談支援の届出先は指定権者である市町村となる点にご注意ください(都道府県指定のサービスとは提出先が異なります)。

6.加算率について

各サービスの加算率は、対象職種の拡大に伴い全体的に引き上げられています。加算Ⅲ・Ⅳに上位区分「ロ」はなく、加算Ⅰ・Ⅱについて「イ」「ロ」の選択が可能となり、区分選択の幅が広がりました。

サービス種別ごとの具体的な加算率は、厚生労働省の告示・通知および各指定権者の公表資料をご確認ください。

7.事業所が今すぐ取り組むべきこと

  1. 処遇改善計画書の提出状況の確認 ― 新区分・新要件に対応した計画書(国様式)の提出が必要です。提出期限は指定権者ごとに異なります
  2. 「誓約」した要件の年度内実施 ― 実績報告で未対応の場合、加算返還のリスクがあります
  3. 上位区分「ロ」の算定可否の検討 ― ICT導入等の投資負担と加算率の上乗せ効果、月給配分義務の重さを比較検討
  4. 賃金規程・手当の見直し ― 月給(基本給・毎月の手当)への配分ルールを満たす賃金設計
  5. 職場環境等要件の項目数の再点検 ― 加算Ⅰ・Ⅱは14項目以上、Ⅲ・Ⅳは8項目以上への対応

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介護・障害福祉事業以外のその他の許認可申請についてお調べの方は、ひかり行政書士法人の総合サイト「許認可.net」もぜひご覧ください。

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